ブガッティ・ヴェイロン 「世界最速の市販車」誕生までの長く苦しい開発期間 歴史アーカイブ
公開 : 2025.05.22 18:45 更新 : 2025.05.22 22:24
W16エンジン搭載のハイパーカー、ブガッティ・ヴェイロン。市販車最速記録を更新したメモリアルな1台ですが、その開発経緯は波乱に満ちたものでした。当時のAUTOCARの記事を振り返ります。
ピエヒ氏も怯んだ? コストかけすぎ問題 当時の記事振り返り
1998年、フォルクスワーゲンは、V12エンジン搭載のスーパーカー『EB110』を世に送り出したブガッティから、ブランドの権利を買収した。
それから7年と10億ユーロ以上の投資を経て、『ヴェイロン』が誕生した。世界がこれまで見た中で最速かつ最もパワフルな量産車であり、設定された開発目標をすべて達成、あるいは上回っていた。ただし、コストは例外だった。コストには制約がなかったため、車両価格は100万ユーロと高額だったにもかかわらず、フォルクスワーゲンは1台あたり500万ユーロの損失を出したと言われている。むしろ、ヴェイロンを愛車にしていた最高責任者のフェルディナント・ピエヒ氏がその損失を被ったと言えるだろう。

クライスラーのボブ・ルッツ氏によると、このアイデアが実現したのは、「必ず成し遂げる。もしできなければ、できる者に交代させる」というピエヒ氏の姿勢があったからだという。ヴェイロンはそもそも、収益を上げるためのクルマではなかった。
1998年当時のAUTOCARの取材で、ピーター・ロビンソン氏は、「もしピエヒが、VWの堅実なイメージを遥かに超えた分野への驚異的な進出を果たさなかったなら、1998年のAUTOCARのコラム連載もはるかに困難なものになっていただろう」とコメントしている。
実際、ピエヒ氏は同年、ロールス・ロイス、ボルボ・トラック、BMW、コスワース、ランボルギーニ、ベントレーの買収を試み、そのうち2社の買収を成功させ、巨大なエンジンを搭載した新モデルラインナップの計画に着手した。
1998年のパリ・モーターショーで、世界は初めてブガッティの狂気を目の当たりにした。『EB118』コンセプトは、最高出力560psの6.3L W18エンジンを搭載した、派手でゴージャスなクーペで、「ピエヒが夕食時にナプキンに描いた簡単なスケッチ」から生まれたとされている。
1999年のジュネーブ・モーターショーでは、フォルクスワーゲンのW12エンジン搭載のスーパーカー『シンクロ(Syncro)』はまだ計画段階にあったが、ベントレーは8.0L W18エンジン搭載のスーパーカーを、ブガッティはEB118のセダンバージョンである『EB218』コンセプトを発表した。
ブガッティの目的は、戦前の地位を取り戻すことだった。そのため、当時のAUTOCAR誌では、「メルセデス・ベンツの『マイバッハ』リムジンの開発チームがブガッティのブースを訪問した後、EB218を “ベンチマーク” と位置付けたことで、フォルクスワーゲンの内部関係者は勇気づけられた」と報じている。
その後まもなく、現在のデザインにかなり近い『18/3シロン』と『18/4ヴェイロン』のコンセプトが発表された。
しかし2000年、W18の開発が鈍化していることが明らかになった。「16気筒と18気筒の両方のエンジンを保有するコストに、ピエヒでさえも怯んでいるようだ」と当時のAUTOCARは推測した。
その後、AUTOCAR英国編集部は秘密厳守を条件に、18/4ヴェイロンに試乗する機会を得た。責任者は「技術は完全に掌握している」と述べたが、実際にはそうではなかったようだ。数か月後、そのモデルは16/4ヴェイロンに進化した。6気筒エンジンを3バンクに配置するのではなく、VR8エンジンをつなぎ合わせてW16とする、はるかにシンプルな構造だった。
それでも、他のすべてのブガッティモデルが計画中止となった後でも、ヴェイロンの開発プロジェクトはあまりにもコストをかけすぎではないかという懸念があった。
ブガッティ社長兼VWグループ全体のパワートレインを担当していたカール・ハインツ・ノイマン氏は、AUTOCARに対し「フォルクスワーゲンには資金力がある。2003年末または2004年初頭から、年間50台、合計200台のヴェイロンを生産する計画だ」と約束した。
しかし、2003年8月までに、ノイマン氏は「解雇通告」を受けた。
AUTOCARは次のように書いている。
「こうした混乱にもかかわらず、ブガッティの幹部らは、スーパーカーの性能がスケールダウンする可能性を否定している。彼らは、四輪駆動のヴェイロンが0-97km/h加速を2.9秒で達成し、最高速度405km/hに達すると主張しているのだ」
そして2005年9月の発売時、ヴェイロンはまさにその通りの性能を実現した。実際には、0-97km/h加速2.5秒と、さらに速くなっていた。AUTOCARは、ついに「フル加速させた2台のTVRと、工業用エアホースを付け加えたような、奇妙なカコフォニー(不協和音)」と「これまでロードカーでは体験したことのない、心を揺さぶる、内蔵が飛び出そうになる加速」を体験できたことに大きな喜びを感じ、そして安堵した。